2015/3/11(水)
記事
時評 3月号

国土強靭化特集
国土強靱化によって地方の雇雇用機会を創る
=人口減少時代の今こそ公共投資を増やし、内需拡大を=

参議院議員(自民党国土強靭化総合調査会筆頭副会長)
佐藤信秋



北陸新幹線(東京・金沢間)が、今月14日に開通する。来年度じゅうには新青森・新函館北斗間も開通見込みで長年の懸案だった北海道から九州までの新幹線ルートが構築されようとしている。一方高速道路も、首都圏では、圏央道・外環道の建設が着々と進み、東九州自動車道も大分県で今年じゅうに全線開通するなど、2020年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、これまで懸案になってきた国土軸の構築が目に見えて進んできている。この動きは、やはり13年に国土強靭化基本法案が成立、昨年6月に閣議決定された国土強靭化基本計画の策定と無関係ではないだろう。「国土強靭化には、内需拡大の意味がある」(藤井聡京都大学大学院教授)−。時評社では、参議院議員(自民党国土強靭化総合調査会筆頭副会長)佐藤信秋氏に改めて国土強靭化の意味を語ってもらうと同時に、昨年伊勢湾台風55年の節目を迎えた三重県桑名市長伊藤徳宇氏に基礎自治体首長としての国土強靭化にかける思いを聞いた。(本誌・中村幸之進)

―――今月、北陸新幹線が東京・金沢間が約二時間半、同・富山間が二時間で結ばれます。石川県、富山県では相当期待が高いようです。

佐藤 地元は、相当盛り上がっているようですね。新幹線は、新青森・新函館北斗間も来年度じゅうに開業される見込みです。今後は、長崎新幹線が2022年度をメドに開業される予定で、北陸新幹線も、22年度には敦賀まで延長されます。北海道でも、函館新北斗・札幌間が30年度に延長される方向で調整されています。

―――20年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを見据え、高速道路も、首都圏では圏央道・外環道の着工が進み、人とモノの流れが大きく変わると予想されます。関西では、新名神高速道路(高槻第1JCT・神戸JCT)が16年度開業されると聞いています。九州においても、東九州自動車道路が今年じゅうに大分県で全線開通される見込みで、大分・宮崎間が一応つながることになります。(編集注:宮崎県清武・日南、鹿児島県志布志を結ぶ区間は未開通区間)13年12月に、国土強靭化基本法案が成立し、昨年6月に国土強靭化基本計画が閣議決定されました。日本の国土軸を支えるインフラ整備がようやく進んできた印象です。

佐藤 人口1億2、600万、38万平方キロ、わが国は狭い国のようでいて、実は広いことがわかります。排他的経済水域(EEZ)で見ると、日本は、実に世界で6番目の国土になります。したがって、港を含めたインフラ整備と増強をきちんと行い、それぞれの地域、山林、島を守りながら国民の皆さんに安心して過ごしていただくことが何より重要で、これが、国土強靭化政策の基本思想でもあるわけです。

―――国土強靭化基本法は、各市町村が、地域に根ざした防災対策、予防対策を地域計画までブレークダウンすることになっていますね。

佐藤 はい。国土強靭化には、国土の足腰を強くするという視点だけでなく、万一災害が起きた場合に孤立するような集落や地域を起さないも大きな柱になっています。自分が住む地域の弱点はどこか、地域の里山はどうやって守っていくのか、孤立しないようにするには道路ネットワークをどうするのか小まめな地域に根ざした防災対策、予防対策をするのが、強靱化の大事な役割と言えるでしょう。

―――時評社では、昨年三重県と共同で、1959年に発災した伊勢湾台風55年の風水害対策セミナーを桑名市で開催しましたが、伊勢湾台風を機に造られた堤防が空洞やコンクリートのひび割れが見られているとの報告を聞きました。

佐藤 伊勢湾周辺の高潮堤防も、かなり老朽化が進んでいるでしょう。多くの構造物が50年くらい経って、更新の時期を迎えているわけですから。メンテナンス、更新をやりながら、新しいものも造っていく。そのためには予算もきちんと手当する必要があります。

―――国土強靭化基本計画は、東日本大震災発災直後に青森県の三村申吾知事からお話いただいた内容が発想の原点になったと伺いましたが。

佐藤 その通りです。2011年5月に三村知事が来られ、震災対策とは別に「災害孤立集落、地域をどうするかという視点で点検してみたら、崖崩れ・治水・道路のメンテナンス、堤防や避難所修理など県内に何百カ所も直す必要がある」とのことでした。当初、知事は、こうした対策こそ公共が担うべきだと「防災公共」と提唱されましたが、青森県だけでなく全国自治体にも共通する課題だと考え、強靱化地域計画を地域自らに立案してもらうことになったわけです。

―――そのような経緯があったとは存じませんでした。東日本大震災発災直後は、民主党政権でしたが、民主党政権が誕生する前後の時代、1990年代後半から2010年くらいまではメディアでも高速道路不要論が声高に叫ばれたり、財源不足を理由に高速道路自体が無駄ではないかという論調が席巻していましたね。

佐藤 「採算がとれないような高速道路は造るべきではない」との論調が大勢を占めていましたね。しかし、採算がとれるかどうかという点と、高速道路の効用は別な議論だということを、東日本大震災はわれわれに気づかせてくれました。そもそも高速道路は、社会資本ですから、費用と効用をトータルで考えれば、十分に引き合うものなのです。欧米の状況をご覧になってください。高速道路は、ほとんどが無料で通行でき、採算などは度外視されています。むしろ、その姿が当たり前ではないでしょうか。

国土強靭化によって、地方に雇用の機会を創る

―――人口減少時代を本格的に迎え、昨年は”自治体消滅”というショッキングな言葉も大きな話題になりました。わが国は、総人口が減り始めたのに、東京一極集中が進んでいる現実があります。2013年のデータによると、東京圏一都三県で9万7千人の転入超過になっており、これはかつて東京一極集中と叫ばれた1980年後半と変わらないと指摘されています。佐藤議員は、この東京一極集中についてどのようなお考えをお持ちですか?

佐藤 今こそ東京は歴史的に蓄えた富と人材を地方に還流すべきでしょう。わかりやすくご説明するために明治時代に遡ってみます。ご存じの方も多いと思いますが、明治初頭、東京は全国で二、三番目の都市でした。トップがどこかというと、新潟だったのです。第二次大戦後、東京の人口だけが10倍以上になり、他の地方都市はせいぜい2倍くらいの増加に留まりました。つまり、明治以降、地方は東京に人口と税収を供給する役割を果たしたとも言えるのです。明治時代の国税は地租ですから、東京は国税をそんなに払いませんでした。地方で上がった国税を、東京・名古屋・大阪などの東海道メガロポリスに投入し、現在の近代都市に仕立てたわけです。

―――結果として、東京の人口増加が顕著に伸びた、と。

佐藤 人間に焦点を当ててみると、教育と雇用が東京を中心とした大都市に集中しているので、上京するのは当然です。つまり、地方に高等教育の場がないから、大学に入るために上京し、卒業したら雇用のある東京周辺に残ってそのまま居ついてしまうわけです。地方の立場からすると、若者が定住しない悪循環は、やはり雇用環境を改善しなければどうにもならないと考えてしまうでしょうね。

―――地方で若者の雇用を増やすにはどのようにすればよいとお考えですか?

佐藤 時間はかかるでしょうが、まず教育の場を地方でも展開することが重要です。「ふるさと納税」ではないけれど、地方大学などに「ふるさと枠」の創設を促し、首都圏を中心とした若者たちに地方で教育を受けてもらうのです。既に、地方大学の医学部の中で、ふるさと枠で入っている人たちが、14〜15%はいると思います。先ほど明治以来の人口動態を例にご説明しましたが、時間はかかっても地道な作業が、この議論から外せないでしょう。

―――とは言え、地方で教育を受けても、就職時に首都圏に戻ってしまうのではありませんか?

佐藤 ですから、国土強靭化地方計画に基づいて、各地域のインフラを充実させ、地方に雇用の機会を創っていく必要があるわけです。国土強靭化は、内需拡大という意味が含まれていて、地方の経済成長に結びつきます。首都圏直下のリスクを少しでも軽減させる意味からも分散型の国土に戻していく必要があるわけです。

―――安倍内閣の第2次内閣官房参与に任命された京都大学大学院藤井聡教授も、国土強靭化には、内需拡大の意味が含まれていると提唱されていますね。

佐藤 私の考えは、藤井教授の主張と全く同じです。マクロ的な視点で説明しましょう。わが国の名目GDP平均値をバブル崩壊直後の平成7〜9年と、直近の22〜24年を比較すると、37.7兆減っています。GDPがこんなに減っている国はもちろん日本だけです。減った原因は、何か―。答えは、公共投資を削ったからにほかなりません。数字で言うと、建設投資の同7〜9年の平均が79兆円。そのうち、公共投資は32兆円でした。一方、22〜24年の建設投資は同43兆円。公共投資は18兆円に大きく減っています。建設投資を見ると、GDPが減った額と、ほぼ同じ規模の36兆円が減り、公共投資もほぼ半減したと言えるわけです。

―――平成8年を起点に考えると、米国は2倍、フランスも1.5倍、英国はロンドンオリンピックを見据えていたこともあり、3倍くらい公共投資予算が増えていますね。欧米の先進諸国が軒並み公共予算を増やしている中で、日本だけが公共投資が減り、民間投資も削減されてしまっています。

佐藤 その通りです。現に、この間、民間投資は47兆円から25兆円となってしまっています。国土強靭化を経済政策として捉えると、この15年の経済政策とは全く逆のアプローチで、民間投資を呼び込み経済を回していく政策と言えるでしょう。ハード面のみならずソフト面も積極的に進め、東海・東南海巨大地震や南海トラフ巨大地震にも備えていくべきでしょう。

他の先進国では軒並み増加しているが、日本だけが大きく減少していることがわかる。
これにより民間投資も削減し、約15年にわたりデフレ経済が定着してしまった。

―――一方、国土を支える建設・土木技術者不足が指摘されています。地方自治体を取材すると、町村規模では土木担当者がいないというケースがよく見られますが、佐藤議員はこうした状況をどのようにお考えですか?

佐藤 先ほど高速道路の話をしましたが、まさに公共事業悪玉論、土木悪玉論が背景にあったわけです。こうした流れもあって、建設・土木技術者の賃金、給料が安くなり過ぎました。15年ぐらい前と比較すると平均で7割以下になってしまいました。朝早くから出て、夜になれば仕事ができない職場です。雪が降っても駄目です。危険だし、屋外作業できついし、評判も悪い。これでは、人も辞めていくでしょうし、集まりません。とにかく先に輝くものが必要なのです。具体的には、人の評価であり、地位であり、処遇であり、賃金、給料が高い循環に戻していくことが何より重要です。

―――今年4月から担い手三法(品確法・建設業法・入契法)が施行されることになり、建設業界の期待も相当高まっているのではありませんか?

佐藤 品確法は議員立法で改正しましたから、特に注視しています。特に、発注者の責任として、受注側が適正な利潤が取れるように実行してもらいたいと思います。受注者は、言わば働いている人たちの処遇や地位や賃金を上げていくことにつながるわけですから。

多極分散型の国土を創るという発想に戻る

―――先ほど、分散型の国土に戻していくとお話されていましたが、この点についてもう少し詳しくご説明いただけますか?

佐藤 もともと、日本の国土をどのようにデザインしていくかという視点に立つと、全総などで議論されてきた理念は、ずっと多極分散型の国土を創るという思想でした。一時期、この思想が経済効率性の面から追いやられた時もあったように思いますが、阪神・淡路大震災や中越、東日本大震災などを経て、危機管理面から改めてクローズアップされてきました。離島も含めて、国土を守る観点からも多極分散型が、わが国のデザインのキーワードであって欲しいと思います。

―――今後、東京オリンピック・パラリンピックという国家プロジェクトの後は、リニア新幹線の開通を機にスーパーメガリージョンという、世界に冠たる巨大な地域づくりを目指し新たな国土軸を構築していくとの考え方も出てきていますが。

佐藤 スーパーメガリージョンが何を指して、どんなふうにしたいのか、私にはよくわかりません。かつての東海道メガロポリスと同じ発想のようでなかなか理解しがたい。リニアについて言うと、現状の新幹線老朽化対策や災害対策という意味から、国土軸が一本でよいのだろうかという意味から必要だろうと思います。これからの時代は、各地域が拠点としてのコンパクトシティを持って、地域の資源、例えば山、森、島などを守っていくべきで、もちろん地域で高齢化も進むわけだからコンパクトシティによって人に集まってもらって、地域住民の皆さんの目と手が行き届くような国土のあり方を希求すべきでしょうね。

―――本日はありがとうございました。