2013/2/21(木)
新聞記事
平成25年2月21日 建設工業新聞

新政権で建設産業政策どう変わる
防災・減災、老朽化対策を推進

自民党参院議員
佐藤 信秋氏に聞く

中長期で公共事業量を回復へ
技術・技能の確保が最優先課題




東日本大震災や山梨県の中央道笹子トンネル天井板崩落事故を教訓に、政府は全国での防災・減災対策やインフラ老朽化対策など公共事業を柱とする12年度補正予算案と13年度予算案を編成し、国土強靱化の推進へと政策のかじをきった。ただ、これまでの公共事業費削減の影響で、大量の発注工事を担う技術者や技能者の不足も指摘される。これからの建設産業政策をどう方向付けるべきか。自民党の国土強靭化総合調査会副会長、公共工事契約適正化委員会次長を務める佐藤信秋参院議員に聞いた。(編集部・冨本伸一)

――社会インフラの役割をどう考える。

「災害への備え、事前防災・減災という観点から公共事業は大変に重要だ。最近は地球温暖化の進展でゲリラ豪雨が各地で発生し、地震が襲ってくる危険にもさらされている。こうした災害に備えるためにソフトとハード両面から災害に強いまちをつくる必要がある。情報通信網や再生エネルギー活用など民間からのインフラ投資も引き出す政策も打ち出さなければならない」

「日本のインフラ整備の水準は世界と比較しても低い。地方自治体の公共事業分も含めた政府総固定資本形成(Ig)が国内総生産(GDP)に占める割合をみると、日本は現時点で2・5%程度だ。15年ほど前に6%を超える高水準にあったころは、対GDP比を根拠に『日本は公共事業が多すぎる』との批判があったが、公共事業の削減で今や対GDP比は欧米並かより低い水準にある。欧米各国は15年前に比べ公共投資を2倍程度に増やしている」

「政府が1987年に策定した四全総(第4次全国総合開発計画)で掲げた高規格幹線道路網の21世紀初頭までの整備目標は約1万4000キロだが、いまだ目標の7割にとどまり、30年前の欧米各国の水準にも追いついていない。港湾や空港の整備も不十分だ。こうしたことでは日本が国際競争力を持つことはできない。東日本大震災でも三陸沿岸道が慨成していたらもっと多くの人命が助かった。良好なストックを確保することがまず必要だ」

――インフラストックの管理を担う建設産業が疲弊している。

「東日本大震災の発生直後に人命救助や緊急物資の運搬のために地元建設業が『くしの歯作戦』で人員と重機を自ら出し、震災翌日に11本、5日目には東北道から太平洋沿岸部に15本の緊急輸送路を切り開いた。地元に建設産業が存在するからこうした緊急復旧が可能になるのに、全国で建設産業が疲弊している。仮に5年後に東北で地震が発生していたらどうなっていたか。建設産業は日本の雇用と生産の1割を支える重要な産業だ。良いインフラをきちんとつくり、災害対応力を確実に担保するためには建設の技術、技能を確保する必要がある」

――12年度補正予算や13年度予算の執行で必要な視点と対策は。

「民主党政権下の3年間で、公共事業費は09年度時点の7・1兆円から12年度当初時点で4・6兆円と3割も減り、新規事業も抑制された。このため、発注側は計画中の事業を休止し、今は測量・設計や用地のストックがない。受注側はリストラを重ね、産業としての体力がなくなっている。円滑な事業執行のための施工確保対策が急務だ」

「補正予算の執行ではまず入札契約の事務手続きの簡素化、施工能力を持つ企業を対象にした指名競争入札の活用、主任技術者の複数現場の兼任などを行う必要がある。財政状況が厳しい自治体にはその負担分を国が交付金で肩代わりする仕組みも用意した。心配せずに必要な事業を要求してほしい。13年度当初予算案は久しぶりに増えた。ここが大事なところで、これ以上削減してはいけない。計画的・着実に戻して行く。まずは12年度補正で(失った予算分を)先取りしたと考えている」

「自公両党はそれぞれに作成した国土強靱化、防災・減災ニューディルの法案を一本化する調整に入っている。新たな法案は今国会に提出する。災害時に被災した都市の機能を代替えする拠点都市を全国に配置し、国土を強く、しなやかにする多極分散型の国土に変える。一過性でなく、中長期の防災・減災対策を推進し、建設業も経営の先行きの見通しを立てられるようにする」

――若年者の入職促進策も必要だ。

「建設産業で働く人の賃金、地位の向上がなければ若者は入ってこない。良い施工と経営を継続的に行っている企業が利益を上げられる仕組みづくりが重要になる。自民党は公共調達の適正化を目的にした新法をつくる議論を始めた。公共工事の発注を会計法や地方自治法を原則にせず、予定価格のあり方やその上限拘束性などを見直す。ここを変えないと各企業がいい仕事ができない」

「この15年間で公共工事設計労務単価は3割も落ちた。現在の調査のやり方を変える必要がある。企業は工事を抱えていない間も雇用者の賃金を払っているが、今はその分が加算されていない。法定福利費分も加算する必要がある。基幹技能者をもっと活用することも大事だ。ベテランの技能者がどの程度の賃金、待遇を受けるのかというキャリアパスも示し、夢を持って若者が建設産業に参入できる政策誘導を講じたい」。