2018/11/21(水)
新聞記事
平成30年11月1日 全中建だより記事 

豊田会長ら、佐藤信秋参議院議員と意見交換
地域を守る建設業 中小企業対策徹底
自ら考え 出来ることから始める

全国中小建設業協会の豊田剛会長は8月21日、来夏に予定されている参議院議員通常選挙(比例代表)の建設業職域代表候補者として全中建が推薦している佐藤信秋参議院議員と、今後の中小建設業のあり方などをテーマに意見交換した。豊田会長は、働き方改革について、発注の平準化や適正工期の設定などを発注者に要請するとともに、中小企業が自ら考え、できることから始めることが大切だと強調した。佐藤議員は、こうした点に加えて、年度越しの発注や繰越の必要性も指摘、発注機関が徹底することに期待を示した

豊田会長は、担い手3法、働き方改革、生産性向上などの方向性は理解し、中小としても対応が必要との認識は示した。しかし一方で、時代の変化についていけない側面があるとも指摘。さらに利益面を始めとして、大企業と中小企業の間で存在する格差を是正していくことも課題として挙げた。

佐藤議員は、「地域を守るのは、その地域の建設業であり、こうした点を踏まえた中小企業対策が政治や行政には求められる」との認識を示した。利益面では、売上高経常利益率で少なくとも5−6%まで高めることが必要と指摘。加えて発注者に対して、「きちんと利益が出るような発注」「年度越しの発注や繰越」を円滑にできるように徹底することなどを求めた。

働き方改革について豊田会長は、「中小にとってはハードルが高い面があり、改革の環境も整っていない」と指摘した上で、発注者には発注の平準化、適正工期の設定、適正な設計変更を期待した。同時に、全中建として働き万改革の取組案を作成しており、「中小として自ら考え、できることから始めます」と強調。そのためには、経費のねん出が課題と付け加えた。

働き方改革に関して佐藤議員が指摘したのは、基本的に屋外作業である建設業の特殊性。例えば屋外作業で週休2日を実現するには、工程係数のようなものが必要だと主張。さらに建設業の特殊性を考えた上で、どう移行していくかを考えないと、働き方改革は、「絵に描いた餅」になるとした。経費の問題についても、労務単価アップの必要性に言及、「最終的には、あと15%くらい上げることが必要だ」との認識を示した。一方、生産性向上について豊田会長は、「中小現場でのi-Constructionの積極的な活用」を求めた。働き方改革と同様に、中小としてできることを、中小自身が考え提案していくという。その一方、具体的な事例がほとんどない状況にふれ、多くの事例が出てくることに期待感を示した。

佐藤議員は、こうした豊田会長の指摘に理解を示しながら、「いきなり崖から飛び降りるような取り組みはダメだ。一つひとつ積み上げながら、みんながついていける範囲で、しかし一方で、スピードはできるだけ、速くいった取り組みが大切」と指摘した。

また、国が生産性の20%アップを目標に掲げても、「実際にやるのは現場であり、しっかりと中身があり、中小企業もついていけるやり方でなげればならない」と強調した。その上で、品確法(公共工事品質確保促進法)改正の必要性について改めて強調した。品確法改正について佐藤議員はすでに、自身が幹事長を務める自民党の公共工事品質確保に関する議員連盟(品確議連)の7月総会で次期通常国会への提出を提案していた。

さらに建設キャリアアップシステムに関しては、豊田会長は「理念には賛成だが、中身がよく理解できない。どんなメリットがあるのかもっと明確にしていただきたい」と要望。佐藤議員は、「現状は限界があるのは事実だ。しかし、システムを運営しながら、時間をかけてより良いものにしていくことが大切だ」と訴えた。これ以外にも地域の守り手としての中小建設業のあり力など、さまざまな観点から意見を交換。今後の協会活動に反映させていく。


【担い手3法 これまでと今後のポイント】

■品確法の改正(平成26年6月施行。議員立法)
◇改正ポイント⇒
  1. 基本理念の追加(将来にわたる公共工事の品質確保とその担い手の中長期的な育成・確保、ダンピング防止などを追加明記)
  2. 発注者の責務(予定価格の適正な設定、低入札価格調査基準等の適切な設定、適切な設計変更等を明確化)
  3. 事業の特性等に応じて選択できる多様な入札契約方式の導入・活用を位置づけ、行きすぎた価格競争を是正

■入契法の改正(平成27年4月全面施行。閣法)
◇改正ポイント⇒
  1. ダンピング対策の強化(入札金額内訳書の提出)
  2. 公共工事の適正な施工(施工体制台帳の作成・提出範囲の拡大)

■建設業法の改正(平成27年4月施行)
◇改正ポイント⇒
  1. 建設工事の担い手の育成・確保(建設業者団体や国交相の責務)
  2. 適正な施工体制確保の徹底(解体工事業の新設、暴力団排除の徹底)

↓↓↓

■品確法改正(次期通常問会に提出?)
◇改正ポイント⇒
  1. 災害復旧の契約のあり方明確化(随意契約活用拡大を視野)
  2. 技術開発と発注のあり方明確化(形式的競争の打破)
  3. 地域守り手として長期見通し明確化
  4. 公共事業を会計法の単年度原則から除外(一般的に年度またき可能に)

■建設業法改正(次期通常国会?)
◇改正ポイント⇒
  1. 「適在な工期」とはなにか。業法に明文化
  2. 後期ダンピングに対する勧告制度創設(不当に低い工期による請負契約禁止に違反した注文者に勧告)
  3. 主任技術者配置の要件合理化へ新制度創設


全中建だより


−−意見交換での発言要旨−−
佐藤議員「年度越しの発注、繰越円滑に」
豊田会長「大企業との格差是正が課題」

河ア 現在の中小建設業をとりまく状況への認識からお伺いします。

豊田 品確法、担い手三法、働き方改革、生産性向上、建設キャリアアップシステムなど、矢継ぎ早に施策が講じられてきました。万向性は理解できますし、中小建設業も対応していかなければならないことは認識しています。しかし、時代の変化についていけない側面もあるのも事実です。一方で、大企業と中小企業には、利益率を始め歴然とした格差があります。こうした格差をいかに是正していくかが課題です。

佐藤 これまで地域の建設業が長期的に頑張っていただき、雇用も支えていただくことが、何より重要だと訴えてきました。地域の中小建設業は、災害復旧などでその地域に貢献しています。地域を守るのは、そこにいる地域の建設業です。こうした点を踏まえた中小対策が、行政としては必要だと考えます。中小企業の利益に関していえば、近年、企業努力もあってよくなってはきました。しかし、売上高経常利益率はわずかなプラスにすぎません。少なくとも5−6%くらいまでもっていくことが必要でしょう。

河ア 行政としては何をすべきでしょうか。

佐藤 地域の建設業は、公共事業に依存している面があります。品確法では、受注者が適正な利潤を確保できるように、発注者の責任として行うことを求めました。行政には、きちっと仕事をしたら、きちんと利益が出るような発注をしていただきたい。

豊田 設計労務単価のアップを始め、これまでの取り組みには感謝しています。

佐藤 設計労務単価は6年連続で上げましたし、低入札価格調斎基準も引き上げてきました。積算の適正化も進んでいます。労務単価と合わせると、ものによっては、15%くらい改善したのではないでしょうか。 今後の行政には、年度越しの発注や繰越が円滑にできるようにしていただきたい。工事の平準化や適性な工期設定の結果、年度を越えることはやむを得ません。むしろ当然のことです。それぞれの発注機関が徹底していくことを期待します。

あるいは、中小の事業承継の問題も出てきました。相続税などの問題で、事業承継できず経営が成り立たないという側面があります。経営環境の改善にも政治、行政として取り組んでいくことが必要です。

河ア 建設業界で大きなテーマになっている働き方改革については、どのように受け止めていますか。

豊田 働き方改革の趣旨には賛同します。しかし中小企業にとっては、ハードルが高いいというのが率直な思いです。改革のための環境が整っていないと受け止めています。発注者側には、発注の平準化、適正工期の設定、適正な設計変更をお願いしたい。

全中建では、働き方改革に関する特別委員会をつくり、具体的な取組案をつくりました。いろんな問題はありますが、「週に一回は残業をしない」といったように、中小として自ら考え、できることから始めます。問題は、働き方改革のための経費です。いかに捻出していくか、中小企業では難しいテーマで頭が痛いところです。

佐藤 建設業は、基本的に屋外作業です。屋外作業の中で働き方を改革するためには、たとえば週休2日実現では、工程係数のようなものが必要になります。その上で、どうやって移行していくかを考えないと、絵に描いた餅になりかねません。さらに次に出てくる問題は経費です。単純に考えれば、これまでの週6日分を5日で稼ぐには、単価のアップが必要です。そうしないと、現場で働く人も経営者も不幸になります。重要なことは、発注者側が、そうした要素を見極め、適正な経費や工期などを設定することです。週休2日をやるには、どれくらいの経費や工期が必要かを把握する必要もあります。いろいろ課題はありますが、まず第一歩を踏み出すことが大切です。労務単価については、最終的に、あと15%程度上げることが必要だと考えています。これくらいのことをしないと、働き方改革は実現しません。意識改革を含めて、地に足がついた中小建設業の働き方改革に取り組んでいきたいものです。

豊田 長時間労働に関してですが、災害対応は規制の適用除外になっていますが、5年後には廃止するとの話もあるようです。しかし労働時間規制は災害復旧には、当てはまらないのではないかと思 います。

佐藤 制度として規制するのは、災害時の緊急事態ではいかがなものかと思います。一方で、過剰労働に近い労働をお願いすることは、安全上、避けるべきでしょう。両方を満足するのはなかなか難しいとは思いますが、制度や仕組みで規制するより、マンパワーを集められるような連携を強めていくことが必要だと考えます。

とくに近年の災害では、その地域の建設業だけでは対応できないことがわかってきました。連携強化が大切です。そのためにどんな施策があるのか、この点を考えるのが政治と行政の役目です。

河ア 罰則付残業時間上限規制、週休二日、現場閉所などは、7月に改定した適正工期設定ガイドラインで可能でしょうか。また、残業時間割増の中小企業特例(現行25%)がなくなり50%以上になると経費増は避けられません。

豊田 最終的には経費をどうみるかにかかっていると思います。経費節減にはいろんな方法があると思うので、一つひとつ研究しながら進めていくことが大切です。

佐藤 よく聞くのは、書類整理が現場技術者の負担になっているということです。昼間は現場で、夜になると資料整理に追われているという実態があります。書類の適正化、簡素化が課題です。必要な資料を限定して、共通した様式でやっていくようにしないといけません。こうした点を始め、働き方改革の中身については、これからも大いに議論していきたいと思います。

河ア 生産性向上も大きな課題です。i-Constructionなど中小の生産性向上は可能でしょうか。

豊田 国は2025年度までにIT全面導入など現場の生産性革命で建設現場の生産性20%向上を掲げげました。大手企業にはメリットがあるでしょうが、中小企業からすると、ドローンや三次元データなどは、中小現場の実情とはかけ離れている面もあります。i-Constructionは、中小現場でも可能です。ぜひ適用していただきたい。また、生産性向上には、プレキャストコンクリート製品など、工場製品の積極的な活用も必要です。こうした点についても取り組んでいきたいと思います。

生産性向上についても、中小としてできることを、中小自身が考え提案していく必要があります。一方で、生産性を高める具体的な事例がほとんどない現実があります。いろんな事例を出していただき、その事例に沿えるような発注をしていただきたいと願っています。

佐藤 ご指摘のとおりだと思います。i-Constructionにしても、いきなり崖から飛び降りるような取り組みはダメです。一つひとつ積み上げながら、みんながついていける範囲で、しかし、スピードはできるだけ速くといった取り組みが大切になります。

国が建設現場の生産性20%アップを目標に掲げるのは結構ですが、実際にやるのは現場です。形だけの生産性向上ではなく、しっかりと中身があり、中小企業もついていけるやり方でなければなりません。官民共同で目標に向かって取り組んでいくことが重要です。中小企業から、どんどん提案していただきたいものです。

河ア 建設キャリアアップシステムについてはいかがでしょうか。

豊田 理念には賛成ですが、まだよくわからない面があります。たとえば、技能者の評価は誰がどのようにするのか、建設キャリアアップシステムによって、どんなメリットがあるのか。こうした点を明確にしていただきたいと思います。

佐藤 長期的な展望では、技能者のキャリアや能力を処遇改善などにつなげられるといった考え方があります。しかし、今すぐにどこまでやれるかについては、限界があるのも事実です。 ですから、時間をかけながら取り組んでいく必要があります。不十分な点はあるのは確かでしょう。しかし、現状のままでいいわけはありません。システムを運営しながら、より良いものにしていくことが大切です。

河ア 地域の守り手として、今後の中小建設企業に求められることはとんな点でしょうか。

豊田 まず地域の守り手として、防災協定への対応があります。ところが国、都道府県、市町村で協定の内容がバラバラです。統一した基本スタイルの必要性を痛感しています。もう一つ、国と地方の規格なども統一した方がいいと思います。

佐藤 防災協定が国や都道府県、市町村でバラバラというのは問題です。現場が混乱してしまいます。6年ほど前に、防災基本法に建設業を指定公共機関として位置づけました。しかし本当に実効あるものにするには、国・都道府県・市町村が、連携して災害協定を建設業団体らと締結する必要があります。最近の災害の頻発を考えると、急ぐべき課題です。

規格などを一統一する必要性も感じています。入札契約適正化法では、各市町村も含めて入札契約制度のあり方を整理して、できるだけ同じ水準にしようとなりました。一方、品確法では、一品生産の難しさを、品質を確保する上でしっかり議論しようとなりました。こうした法律を使いながら、国と地方が連携して統一性を高めていければと考えています。

河ア 品碓議連の幹事長として品確法を今後どのように改正していくのか、お聞かせください。

佐藤 大きくは4つのことを考えています。

第一は、近年の災害の多さを考えると、災害復旧での契約のあり方を再検討する必要があると思います。緊急な対応はできるようになりましたが、本格復旧では改めて指名競争や一般競争となってしまうのが実状です。もう少しやり方を考える必要があります。現在の品確法でも、いろんな発注ができるとなっていますが、災害復旧での契約について、品確法に盛り込みたいものです。

第二は、技術開発関係です。例えば何社かに技術開発を依頼し、その中からある会社の技術を採用し、工事発注するとします。こうした場合でも複数の企業による競争が原則です。この辺りを何か工夫したいと考えています。

第三は、地域の守り手としての建設業が、長期的な見通しが立てられるようにできないものか。こうした点について、品確法からメッセージとして出せればと模索しています。

さらに第四として、公共事業を会計法の単年度の原則から外し、年度またぎを明確にできればと考えています。平準化だげでなく、年度越えが普通にできるようにしたいものです。でさることから初めます。来年の通常国会への提出が目標です。



全中建だより