2019/1/31(木)
新聞記事
平成31年1月15日 日刊建設青森新聞記事 
2019新春特別対談

【2019新春特別対談】
青森県知事 三村 申吾 氏 × 参議院議員 佐藤 信秋 氏
「経済を回す」新3K建設産業

社会の基礎、安全・安心の確保

三村知事が生んだ「国土強靭化」

◇佐藤議員 昨年9月6日に北海道胆振地方中東部を震源とする地震が発生し、9月4日から5日には台風21号が日本列島を縦断するなど各地で多くの被害が生じました。

災害の復旧・復興と並行して進められる防災対策では、被災を免れる対策が重要となる一方で、万一災害が起きた場合に集落や地域の孤立を起さないことも大きな柱となります。

2011年5月に三村知事が来られ、「災害孤立集落、地域をどうするかという視点で点検してみたら、何百か所も直す必要がある」とのことでした。知事は、こうした対策こそ公共が担うべきだと「防災公共」と提唱されましたが、青森県だけでなく全国自治体にも共通する課題だと考え、強靱化地域計画を地域自らに立案してもらうことになったわけです。

また、青森県では消防職員、警察官、合計で5000人余です。この他消防団員、水防団員計約2万人がいますが、非常勤で、多くは、建設産業や農業の人達が担っています。建設産業に働く人達は約6万人、ピーク時に比べると大幅に減っていますが、それでも消防、警察の約10倍の人材が働いています。いざという時、全国津々浦々に働く地域の建設業及び建設関連業の皆様がいなければ対応出来ません。道路を啓開し、応急対応するほか、どう復旧するかは先ず調査、測量、設計が急務です。国土を守り、支えるという面から、危機管理の担い手として建設産業が改めて再評価されつつあると思います。

中長期的に建設投資が、一定規模必要とのメッセージを政府が出し、国土強靱化と国土再生、建設業及び建設関連業等の担い手確保が待った無しの政策であると明確化すべきです。

◇三村知事 大規模化、複雑化・多様化する災害や危機への備えとしては、見えにくい部分こそ、平時から着実に取り組むことが大切だと思っており、山間地の砂防ダムや治山施設などは、豪雨等による被害を確実に軽減し、住民の命と財産を守る基盤であることから計画的に整備を進めています。

本県では、大規模地震を想定した施策の検討を行ってきました。それは大震災前、平成20年6月 の岩手・宮城内陸地震で多くの孤立集落が発生したことを受けたものでした。

防災公共とは、災害時に人命を守ることを最優先に、「孤立集落をつくらない」という視点と「逃げる」という発想を重視した、防災対策と危機管理体制の強化の取り組みです。

県では、この取り組みを具体化するため、全市町村分の防災公共推進計画を策定しました。これにより避難所が危険区域にあることが判明、避難所を安全な場所に改める、既にそういった成果を上げています。

国土強靱化基本法の考え方は、「防災公共」を進めている私どもと軌を一にしているものと認識しています。

私は、県民の命と暮らしを守るために、引き続きこの防災公共に取り組み、災害に強い青森県づくりを強力に進めていきます。

国土強靭化3か年緊急対策

◇佐藤議員 昨年11月5日の参議院予算委員会において、私は重要インフラの緊急点検や国土強靭化計画の見直し、今後のインフラ整備と予算の見通し等について質問しました。

安倍首相は、「インフラの点検結果などを踏まえて年内に緊急対策を取りまとめ、3年集中で実施していく」。さらに「国土強靭化基本計画を年内に見直し、中長期的な目標や方針を明らかにし、消費税対応に係る臨時特別措置の活用をはじめ、必要な予算を確保し国土強靭化の取組をさらに加速化させていく」と強調しました。

私は恒常的に予算を確保しながら進めることが大事であるとし、実効性の確保を求めました。

相次ぐ自然災害への対応を念頭に、政府は今後3年間で事業規模約7兆円の『緊急対策』を推し進める方針を示しました。

本当の意味で国土強靭化を推し進めようとすれば、3年間の緊急対策には限界があります。ベースとなるインフラ投資の水準を引き上げながら、10−15年の長期スパンで着実かつ計画的に進めていく必要があると訴えています。

とりわけ公共事業費がピーク時から半減している中で、緊急対策として投入するインフラ整備費が従来の公共事業費の枠に食い込むようなことがあってはなりません。ベースとなる公共事業費に上積みする形で進めていくべし、と訴えそのような結果となりました。

経済・雇用の持続する仕組みづくり

働き方改革、担い手確保

◇佐藤議員 建設・土木技術者の賃金は、ピーク時の平成9年度と平成24年度を比較すると平均で7割以下になってしまいました。長時間労働、休日が少ない、危険、屋外できついなどと評判も悪い。これでは、人も辞め、集まりません。

とにかく先に輝くものが必要なのです。具体的には、人の評価であり、地位であり、処遇の改善が重要です。

このことから、平成25年度から6年連続で設計労務単価の引き上げやダンピング抑止、低入札価格調査基準の引き上げに尽力してきました。

これらにより近年、建設企業の経営環境好転などの兆しを見せています。

また議員立法で品確法を改正し、特に、発注者の責任として、受注側が適正な利潤を確保できるよう法整備しました。受注者は、労働者の処遇改善、地位や賃金の改善を実行して、その先の魅力のある新3K(給与が良い・休日が取れる・希望が持てる)の建設産業への再生を図っていかなければなりません。

建設業において働き方を改革、たとえば週休2日実現では、単純に考えればこれまでの週6日分を5日で稼ぐ単価のアップが必要です。そうしないと、現場で働く人も経営者も立ちいきません。

週休2日を推進するため重要なことは、発注者側が、適正な経費や工期などを設定することです。労務単価については、あと15%程度上げることが必要だと考えています。これくらいのことをしないと、働き方改革は実現しません。意識改革を含めて、地に足がついた中小建設業を含めた働き方改革、生産性向上に取り組んでいきたいものです。

◇三村知事 労働力不足への対応について、現在、県内の有効求人倍率は1倍以上の状況が続いています。これは、県内企業等の求人増加や雇用情勢の改善によるものと考えていますが、その裏返しとして、医療・福祉や建設業をはじめとする多くの分野で慢性的な労働者不足が顕在化しています。

こうした状況は、少子化・高齢化が進むにつれて一層顕著になることから、短期的には、今ある潜在的な労働力、女性や高齢者などが就業しやすい環境づくりに取り組むとともに、高校生、大学生、社会人などの県内定着・還流を促進し、また、ものづくり企業等の人財の獲得・育成についても対策を講ずる必要があります。

さらに、中長期的には、各産業分野におけるニーズや将来の見通し等を踏まえながら、企業等の労働生産性の向上や技術革新の支援、建設業や農林水産業等におけるICTの活用なども進めていく考えであります。

企業における人財の育成等を推進するほか、それぞれに合った働き方・生き方ができる青森県を目指していきます

『青森県型地域共生社会』の実現を

◇佐藤議員 今こそ青森の防災公共、強靭化を進め、地方分散の拠点にしなければなりません。

これまでは地方で上がった国税を、東京・名古屋・大阪などの東海道メガロポリスに投入し、現在の近代都市が築き上げられてきました。

人間に焦点を当ててみると、教育と雇用が大都市に集中しているので、大学に入るために上京し、卒業したら雇用のある東京周辺にそのまま居ついてしまう。地方の立場からすると、若者が定住しない悪循環は、やはり雇用環境を改善しなければならないと考えるようになるでしょう。

国土強靭化地域計画に基づいて、各地域のインフラを充実させ、地方に雇用の機会を創っていく必要があります。国土強靭化は、内需拡大という意味が含まれていて、地方の経済成長に結びつきます。さらに首都圏直下型地震のリスクを少しでも軽減させる意味からも、分散型の国土に戻していく必要があるわけです。

◇三村知事 「人口減少克服」は本県の最重要課題です。

人口減少社会にあっても、県民の誰もが、この青森の地で安心して暮らしていくことができる、持続可能な地域づくりを着実に進めていくためには、地域において魅力ある「しごと」をつくり、多様な雇用を生み出し、そこで生まれた収入を地域経済の中でしっかりと回していく「経済を回す」仕組みづくりが重要です。

そのために、2025年の超高齢化時代を見据え、県民の誰もが、地域で生まれ、地域で育ち、地域を助け、地域で安心して老後を迎えることができる「青森県型地域共生社会」の実現をめざします。保健・医療・福祉体制の一層の充実、交通や買物、食事など生活機能の維持・確保、地域生活サービスを提供する多様な担い手の確保・育成などについて、市町村や地域による主体的・持続的な取組の実施に向けた仕組みづくりを進めます。そして、それを支えるインフラが重要であること、また、建設業及び建設関連業はすそ野も広く、地域経済にもたらす効果も大きいことから、引き続きインフラ整備を進めます。

時代は大きく転換し、人びとの価値観も変わりつつあります。近年の外国人延べ宿泊者数や農業産出額の増加は、元来、私たち青森県民が誇りに思っていた本県の豊かな食資源や観光資源、そして私たちの暮らしている青森県の価値が、県外、海外で高く評価されるようになってきたことの証でもあります。子どもから大人まで、県民誰もがふるさとあおもりへの誇りを持ち、県外・海外に向けて自信を持って発信していけるよう、また、「ここに生まれて良かった」「ここで暮らして良かった」と思えるような、幸福感にあふれる青森県をつくっていきたい。そう考えています。


三村申吾氏(みむら・しんご)
1992年2月に百石町長、2000年6月に衆議院議員。2003年7月から青森県知事。1956年百石町(現おいらせ町)生まれの62歳。

佐藤信秋氏(さとう・のぶあき)
1972年建設省入省。国土交通省道路局長、技監、事務次官などを歴任し、2006年退官。2007年から参議院議員。1947年新潟市生まれの71歳。